「事故物件」という言葉を聞いたことがありますよね?
賃貸物件を探す際には
「事故物件だったら嫌だな。」
「安く借りたいから事故物件がいい。」
と、少なからず気になる事故物件。
一般的に事故物件を連想すると殺人事件や自殺といった人命に関わることをイメージされませんか?
今回の記事を読んで「事故物件や告知事項」をしっかりと理解することでお部屋探しに役立ててください。
事故物件とは? 告知事項・心理的瑕疵物件・訳あり物件を解説
事故物件とはこんな物件!(心理的瑕疵物件の定義とは?)
「事故物件」という言葉は世間一般的に使用されていますが、不動産取引や法律では「心理的瑕疵(のある物件)」といいます。
「瑕疵(かし)」とは欠点や欠陥(けっかん)のことです。これに「心理的」が付きますので、「瑕疵=嫌悪感」と思って下さい。
ここで述べる嫌悪感とはその事実を知ることで抱く感情を意味するため、目に見える傷や劣化などにより抱く嫌悪感とは異なり、教えてもらわなければ知りえない部分です。
ちなみに目に見える瑕疵のことを「物理的瑕疵」といいます。
この瑕疵を教えてくれれば契約はしない(しなかった)など目に見えない部分で契約の意思決定に影響することが「心理的瑕疵」です。したがって、一般的に事故物件というと殺人事件や自殺を連想されがちですが、心理的瑕疵物件は他にも嫌悪感を抱く事由のある物件全般をいいます。
心理的影響を与える「訳」のあることから「訳あり物件」ともいわれています。
このようにその物件に心理的瑕疵がある場合は物件広告や契約書類などに「告知事項(あり)」という文言を使用します。
不動産屋は心理的瑕疵となる物件(訳あり物件)は必ず賃借人に説明するように告知義務があります。この告知事項という文言がある場合は心理的瑕疵のある物件(訳あり物件)といえるので必ず不動産屋に原因を確認するようにしましょう。
それでは「訳あり物件」とはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
訳あり物件1 事故物件(亡くなった部屋)の告知事項
建物内や室内で人が亡くなると事故物件と連想されがちですが、死亡の原因によって事故物件として扱われるかは異なります。死亡の主な原因は「他殺」「自殺」「自然死」の3つの種類があります。
では、この3つの種類のすべてが事故物件かというと実は基準が非常に曖昧のため都度扱いが異なります。なぜなら現在の法律では事故物件に対する定義がないのです。
特に賃貸では各不動産屋(または大家さん)によって告知する基準が異なります。
実際に私が不動産業界に20年近く勤めて見聞きした各不動産屋の告知義務に対する認識はこれだけ違うのです。
- 「他殺」や「自殺」があった部屋は告知するが、「自然死」の場合は告知しない
- 「他殺」や「自殺」であってもその後に入居者の入れ替わりが1~2回あれば告知しない
- 「自然死」でも発見されるまでに数日以上の日数を要した場合は告知する
- 同じ階の別の部屋で「他殺」や「自殺」があれば告知するが、違う階であれば告知しない
- 同じ階でも部屋が違うのであればいかなる原因の死亡でも告知しない
- どのような原因でも亡くなった場合は告知する
- 病院で亡くなった場合は告知しない
このように不動産業界では各不動産屋や担当者によって考え方が非常に異なります。
告知義務があるのにこんなに曖昧でいいのか?という声が聞こえてきそうですが、残念ながらどれも違法ではないのです。厳密には
「場合によっては違法になる」
「場合によっては違法にならない」
これが事実なのです。
なぜなら心理的瑕疵は人によって感じ方が違うということ、また、殺人や自殺でも“いつ・どこで・どのような”という状況や物件環境によっても裁判の判決事例が異なっているため、告知する基準も不動産屋や大家さんによって異なるのです。
現在の法律では告知を義務付けていても内容の基準がないのです。
私の考え方は亡くなったことを知っている限りは全て告知するべきと思いますが、早く法律による明確な基準を定めてほしいと願います。
なぜなら大家さん側からすると、なんでも告知することによって家賃の減収になります。借りる側からすれば告知されずに後から知るなんて嫌ですよね。
現状の曖昧な基準は不動産屋ではなく大家さんと借主が被害者になります。
訳あり物件2 隣人などによる「心理的瑕疵」の告知事項
賃貸物件を含め集合住宅(マンションやアパート)では「隣人の生活音は許容して下さい。」と解釈するような文言が契約書に記載されています。
これはどうしても共同住宅では上下左右の音や声が漏れてしまうことがあり、またその感じ方は人それぞれ異なるので完全に音漏れのない生活を約束する事が出来ないため契約書にはこのような文言があります。
しかし、「常軌を逸した迷惑行為」をする住民がいる場合は告知しておくべき事由になりえます。
ここでの訳あり物件は通常の生活による音漏れではなく「常軌を逸した迷惑行為」をする人がいる場合に告知事項のあった実例を紹介します。
実例1 隣の住民の迷惑行為
鉄筋コンクリートの立派なマンションでした。駅も近く家賃も高めのはずの物件がやけに安い家賃で募集されていました。おかしいと思い図面(不動産屋のチラシ)をよく見ると「告知事項」の文字が...!?
すぐに管理会社に理由を聞くと隣の部屋の入居者がベランダから募集部屋に身を乗り出して罵声や怒声を浴びせたり、玄関のドアを異常に叩くといった迷惑行為により前入居者が退去したお部屋でした。
実例2 住民が部屋の中に入ってくる
被害に合っている部屋は201号室、加害者の部屋は204号室でした。
部屋の番号から分かるようにお互いの部屋は離れています。204号室の住民が201号室の帰宅時に一緒に部屋に入ってくるということが度々あるとの相談でした。
他にも部屋に入れまいと玄関の扉を閉めようとすると足を挟んで閉めさせなかったり、玄関を占めた後に外からドアを開けようとガチャガチャとドアノブを回す行為をしていました。ちなみに双方とも男性の一人暮らしです。
特にクレームを言うでもなく、終始無言でいるようです。
204号室の住民は精神疾患を患っていてまともな話し合いができない状態にあり改善されることはありませんでした。
実例3 大家さんによる迷惑行為
築年数も新しく人気エリアにある物件です。この物件のそばに大家さんは住んでいます。
大家さんはこの賃貸物件の敷地に私物を置くことが頻繁にありました。この私物のせいで駐車場も借りている住民が「車の出し入れに障害となるためどかしてほしい」と大家さんにお願いしたところ「俺は大家だ!だから自由に物を置くことができる。」との返し文句があったそうです。
他にも契約更新の時に相場とかけ離れた家賃の値上げを伝えてきたり、ことあるごとに入居屋に対して罵声を浴びせていました。
このように入居者通しの迷惑行為だけでなく大家さんが迷惑行為をすることもあるのです。
訳あり物件3 周辺環境に心理的瑕疵がある場合
ここでご紹介するのは周辺環境に気を付ける内容です。
しかし、1階に飲食店が入っていて虫が発生しやすいということでは訳あり物件とはなりません。これに関しては内見した際にご自身で確認できることですので入居後に虫が出たり、飲食店の騒音や臭いを感じても心理的瑕疵とは見なされないといえます。
実例1 同じ建物内に暴力団事務所
駅近くの繁華街にあるマンションでした。
人気エリアに関わらずやけに家賃が安かったのを覚えています。
物件チラシにはやはり告知事項の文字が...告知の理由を管理会社に尋ねるとフロア違いに暴力団事務所があり頻繁にそれらしい車がエントランスの前に停車されているとのことでした
実例2 周辺の空き地はある教団が所有
ベランダの向かいの土地は広い空地になっていました。
本来なら陽当りも良くて喜べるのですが、その土地の所有者は世間を震撼させた教団が所有していました。その時点では教団施設などを立てる計画はありませんでしたが、やはりこういった場合も心理的瑕疵になりうるため告知事項ありとして募集されていました。
訳あり物件4 過去にあった建物の欠陥・被害
物件の年数による劣化や損傷は該当しません。
構造上の問題や自然現象による過去の被害による訳あり物件をご紹介します。
実例1 過去の大雨で1階が浸水
この物件の1階部分は道路より階段2~3段分低いマンションでした。
私がお客様にご紹介している最中に疑問に思ったのは1階と2階の家賃の差があまりにも離れていた点です。通常でも1階より2階は家賃が高くなりますが、この物件はあまりにもその差がありました。
管理会社へ確認したところ「過去の大雨の際に1階部分のお部屋は全て膝下あたりまで浸水した。」という理由でした。それからも浸水対策はできていないとの事でしたので再度繰り返す恐れのある物件のため家賃が安かったのです。
訳あり物件はどのタイミングで教えてくれるのか?
心理的瑕疵のある物件を不動産屋が紹介する際には告知義務があることをお伝えしました。
では告知はいつ・どのように伝えられるのでしょう?
契約までの流れの中で告知事項を知り得るタイミングは主に以下のようになります。
- インターネットの広告に告知してある
- 物件チラシに記載してある
- 室内を見学する前に教えてくれる
- 見学後に教えてくれる
- 契約の時に教えてくれる
借主からすると上記「4」「5」のタイミングで教えてくれても遅いですよね。
しかし実際には、このタイミングで説明する事になることもあります。
ではなぜこのように不動産屋からお伝えするタイミングが異なるのでしょう?
告知事項の有無を知っている不動産屋に物件を紹介してもらう場合は通常は上記「2」の時点では伝えられます。
しかし、多くの場合、あなたに物件を紹介してくれる不動産屋は仲介会社(客付業者)となります。
告知事項の有無を知っているのは管理会社(元付業者)のため、物件を紹介してくれる客付業者も元付業者から告知事項を教えてもらわないとあなたと同じように知らないことになります。
先述で、訳あり物件の実例を紹介しましたが、全ての実例が「告知事項あり」と物件チラシに記載があったわけではありません。チラシをみて家賃の安さやその他なんとなく違和感があり管理会社に確認したから聞けたこともあります。
また、見学後にお客様がその物件に決める旨を管理会社に伝えた時に聞かされることもありました。
物件チラシに「告知事項あり」と記載があればあなたも客付業者も気付きますが、記載がなければ客付業者が元付業者から教えてもらったタイミングであなたに伝えることになるため、知り得るタイミングが異なることがあるのです。
※仲介会社、管理会社の詳細は以前記事にしているのでこちらを参照にしてください。
告知事項、心理的瑕疵の基準が曖昧ということもお伝えしました。
そのため実例でご紹介したような問題があったからといって告知事項になるとは限りません。
では、「訳あり物件」を自分で気付くことはできないのでしょうか?
答えは全てではなくてもご自身が注意することで訳あり物件を知ることができます。
- 相場より安い物件は不動産屋に理由を聞く
- どんな住民が住んでいるか聞く
- 前の住民が引っ越しした理由を聞く
- 大家さんはどういう人か聞く
- 事故物件サイトで確認する ※下記サイトを参照してください
- 管理は誰がしているのか聞く
※上記サイトの地図上で場所を絞っていくと「事故物件の名称」までたどり着きます
このようにご自身でも物件を調べる気持ちが大切です。
他の部屋の住民や前入居者のことは個人情報のため詳細までは聞けないことが多いですが、それでも聞けることはありますので聞かないよりは安心できます。
ただし、これらを聞くのは不動産屋に訪問した時や担当者と会った時にした方が良いといえます。なぜならメールや電話で問い合わせをした時に聞いても不動産屋はあなたのことをまったく知らないので個人情報が含まれる内容は伏せてしまいがちだからです。
事故物件の裁判事例
最後にこの記事で書いた事故物件(人が亡くなっている)物件について心理的瑕疵・告知事項が関係している裁判事例を紹介します。
【事例1】平成19年8月10日 東京地裁
事案
賃借人が室内で自殺。賃貸人は賃借人の相続人、保証人に対し、事故による逸失利益の損害賠償を請求した。(請求額676万円余)
裁判所判事
- 自殺しないようにすることも賃借人の善管注意義務に含まれる。よって、賃借人の相続人、連帯保証人は、賃貸人が負った損害につき賠償責任がある。
- 本件物件が都市部のワンルームであり、近所つきあいが希薄であることを考慮すれば、本件事件後最初の賃借人には本件事件を告知する義務はあるが、次の賃借人には特段の事情がない限り告知する義務はない。よって、賃貸人の損害は、132万円余(事故後1年間は賃貸できず、その後2年間は従前賃料の半額しか賃貸できないとした逸失利益)であると認める。
- 本件貸室以外の貸室を賃貸するにあたり、本件事件を告知する義務はなく、他室の賃料減収を理由とする損害は認められない。また、賃貸人は本件建物を売却する予定はなかったのであるから、損害の認定において事件による建物価値の減少を検討する必要はない。
【事例2】平成18年12月6日 東京地裁
事案
賃借人の階下の部屋で半年以上前に自然死があった。賃借人は、入居にあたり当該事件を告知する義務があったとして、賃貸人及び仲介業者に対し、入退去に関する費用及び慰謝料合計94万円余を請求した。これに対し、仲介業者は当該事件について事前に告知したと反論した。
裁判所判事
本件建物の階下の部屋で半年以上前に自然死があった事実は、社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当しない。よって、賃借人請求を棄却する。
【事例3】平成13年11月29日 東京地裁
事案
貸室(借上げ社宅)において賃借人従業員が自殺した。賃貸人は、従前4万8千円/月で賃貸していたところ、本件事故により10年間にわたり2万8千円/月でしか賃貸しできなくなったとして、賃借人に228万円の損害賠償を請求した。
裁判所判事
- 賃借人は、善良なる管理者の注意をもって貸室を使用し保存すべき義務を負っており、心理的嫌悪事由を発生しないようにする義務がある。
- 本件貸室が大都市に所在する単身者用のアパートの一室であることから、本件事件は2年程度を過ぎると瑕疵ではなくなり、他に賃貸するにあたり、本件事件を告げる必要はない。
- よって、賃借人が賠償すべき賃貸人の損害は、2年間の賃料差額合計より中間利息を控除した43万円余と認められる。
最後に
いかがですか?
判例では「事故があって最初の募集時には告知義務があっても、次回以降は義務がない」という事例や「半年以上前の自然死は心理的欠陥に該当しない」という判例もありました。
また、2年程度過ぎると事件を告げる必要はない」ともあります。
訳あり物件1で不動産屋によって事故物件の告知に対する認識が異なるとお伝えしたのは、このように判例はその原因や時期のみではなく、都市部なのか?間取りは?近所付合いの度合いなど考慮する点が非常に多いためその都度扱いが異なるからです。
私の個人的な思いとしては、都度扱いが異なっても類似する事故物件が不動産屋(場合によっては大家さん)の考え方次第で一方では告示され、一方では告示されないというのはやはり不動産屋都合に思えてしまいます。
したがって貸主、借主にもわかりやすい法的基準を制定すべきと考えていました。
ついに国土交通省は2020年2月より事故物件に明確な基準を定めるガイドライン作成の着手に取り掛かりました。
このガイドラインが作成されることによって、今まで告示されていた内容が告示されなくなるかもしれません。逆に告示されていなかったことが告示されるかもしれません。貸主借主どちらかが不利益を被ることにもなると思います。
それでも私はこのガイドラインが基準となることは貸主借主双方のためになると考えます。
特に賃貸では裁判にかかる費用が家賃に比べて高額になる割に訴えが通る可能性が定かではない為どちらかの泣き寝入りが往々にあるからです。
現段階では法律に定められるのはまだ時間がかかりそうです。
ガイドラインによる基準が定められても「訳あり」なんて何もないお部屋が見つかることが最良です。そのためにはご自身から不動産屋に確認と、信頼できる不動産屋(担当者)に紹介してもらうことが大切です。